個人事業か会社設立か1

税務

1 個人事業か会社設立か

「事業を始めるのに会社を設立した方がいいですか?」と聞かれますが、「最初は個人事業で始めて、利益が500万円前後になってから会社設立(法人成り)を検討した方がいい」と、お答えしています。

年配の男性に多い気がします。逆に女性はさくさく個人事業を選ばれるような気が…

2 個人事業のメリット・デメリット

(1)メリット
  個人事業のメリットは、何といっても手軽に開始できることです。
  手続きは、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出するだけですし、廃業する時も「個人事業の
  開業・廃業等届出書」を提出するだけなので簡単です。
  中には「とりあえず事業を始めちゃって売上が多くなってから税務署に届け出る」なんて人もいます。
  まぁ、どうなるかわからない段階ですしね。(勧めてはおりません)
(2)デメリット
  デメリットとしては、やはり法人と比べると信用面で劣るということ。
  また、個人事業の場合は所得税の課税対象となりますので、「累進課税制度」による課税がされます。
  これは所得が増えるほど税率も上がる仕組みとなっており、課税所得金額が4000万円を超えると
  最高税率45%の所得税率となります。これに住民税が10%加わると、税率55%になります。
  所得金額の55%を税金で納めると思うと複雑な気持ちにはなりますね。
       

  課税所得金額    税率     控除額  
 195万円以下   5%         0円
 330万円以下 10%    97,500円
 695万円以下 20%  427,500円 
 900万円以下 23%  636,000円
1800万円以下  33%1,536,000円
4000万円以下 40%2,796,000円
4000万円超 45%4,796,000円
所得税の税率

最高税率、所得税45%と住民税10%と事業税ですよ!
                             …重いです。

3 法人のメリット・デメリット

(1)メリット
  ①信用
   個人事業主と比較すると、法人は初めに資本金を入れて事業を行うことになりますので、社会的な信頼が
   高く、助成金の申請や金融機関の融資も審査が通りやすくなります。

  ②法人税率
   法人の場合は法人税の課税対象となりますので、税率は法人税、法人事業税や法人住民税などを合計した
   実効税率30.62%となります。
   一定の所得金額を超えると、所得税の税率より低くて済みます。

  ③役員報酬の給与所得控除による節税
   個人事業主の場合は、売上から経費を引いたものが「事業所得」として所得税の課税対象になりました
   が、法人の場合は、会社から社長に払う給料が「役員報酬」という経費になります。
   「役員報酬」は「給与所得」として所得税の課税対象となります。
   この給与所得には給与所得控除という控除額があります。※給与所得控除の速算表
   つまり、事業所得として売上から経費を引いた金額で所得税を納めるよりも、法人化して売上と経費を損
   益トントン位の「役員報酬」に設定して法人税を節約し、給与所得控除を使って少なくした「給与所得」
   で所得税を納付する方がトータルの税金の納付金額が少なくて済みます。
  
  ④役員社宅による節税
   個人事業主の場合は、自宅家賃のうち事業の用に供している分だけが経費になりますが、法人の場合は会
   社で賃貸契約をし社宅として社長に貸せば節税になります。(一定の負担はあります。)

  ⑤欠損金額の繰越期間が10年
   個人事業主の場合は、事業所得の赤字の繰越控除が3年(青色申告の場合)ですが、法人の場合は赤字の
   繰越控除が10年あります。

  ⑥消費税の免税期間の活用
   個人事業主でも法人でも2年前(「基準期間」といいます)の売上が1000万円を超えるか、前年上半
   期の売上が1000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。
   新設法人で資本金が1000万円未満の場合には、設立事業年度とその翌事業年度は基準期間がありませ
   んので納税義務はありません。個人事業の売上が1000万円を超えるタイミングで法人化し、消費税の
   免税期間を引き延ばすことで節税できます。

(2)デメリット
  ①法人設立登記の手間と費用
   個人事業主の場合は、税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出するだけです。
   一方、会社を設立する場合には、定款を作成して公証人役場で認証を受け、資本金を払込み、法務局で
   法人登記の手続きをすることになります。
   かかる費用も資本金の他に、定款を紙で作成すると印紙税が4万円(電子定款なら印紙税の対象外なので
   0円)かかり、公証人役場での定款認証費用は、資本金の額により3~5万円、法務局での法人登記申請
   の登録免許税が15万円、専門家に依頼すればその分の手数料がかかります。
   手間と費用は個人事業とは比べ物になりません。

  ②社会保険加入
   法人になると、たとえ社長一人だったとしても社会保険の加入義務が生じます。個人事業主の国民健康
   保険に比べると支払う最高額が大きく違います。
   その分、社会保険の方が手当てが厚い部分はあります。

  ③赤字でも税金がかかる
   法人になると、たとえ赤字であっても法人住民税の均等割額が最低7万円かかります。 
 
  ④決算申告が煩雑
   個人事業主の場合は、確定申告を自分で行うケースは少なくないと思います。法人の場合は書類の種類や
   提出が煩雑になります。

4 法人化するかどうか

 個人事業を法人化するかどうか、節税の観点からは個人事業の所得金額が500万円を超えてきた時と、売上高が1000万円を超えて消費税の課税対象になる時が法人化を考えるタイミングとなります。
 ただ、自分一人で事業をする場合で事業を拡大しないのであれば、法人化による様々な手間とコストを考えると個人事業のままでもよいのではないかと考えます。
 逆に、事業を拡大していくのであれば、早いタイミングで法人化してしまった方が成長スピードが早くなるでしょう。その場合も資金繰りなどランニングコストはしっかりと計画を立てておきましょう。